大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋高等裁判所金沢支部 昭和55年(行コ)4号 判決 1981年2月04日

控訴人(原告) 佐藤悦子

被控訴人(被告) 建設大臣 福井県知事

主文

本件各控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は「原判決を取消す。被控訴人福井県知事が昭和五三年四月一四日付をもつてなした控訴人の同年三月一三日付道路管理者福井県が道路法九三条の規定に基き原判決添付目録記載の土地(廃道敷)を三国町に引渡した処分に係る異議申立を却下する処分は、これを取消す。被控訴人建設大臣が昭和五三年七月三日付をもつてなした、控訴人の同年五月一三日付審査請求を却下する処分は、これを取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人らは主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張および証拠関係は、控訴人において甲第八号証を提出し、乙第二号証の成立を認めると述べ、被控訴人福井県知事において乙第二号証を提出し、甲第八号証の成立を認めると述べ、被控訴人建設大臣において甲第八号証の成立を認めると述べたほか、原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する。

理由

一  原処分の存在

訴外福井県が本件土地を訴外三国町に引渡したことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない丙第六号証によれば右引渡の日時は昭和四九年一月三一日であることが認められる(以下これを本件引渡処分という)。

二  異議申立ておよび決定について

(一)  控訴人が昭和五三年三月一三日付で被控訴人福井県知事に対し本件引渡処分についての異議申立をしたこと、同被控訴人が同年四月一四日付決定をもつて右異議申立てを却下したことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない丙第八号証によれば、右却下の理由は、右異議申立ては申立期間を徒過した後に申立てられたものであるから不適法であるというにあることが認められる。

(二)  控訴人は、被控訴人福井県知事が控訴人の口頭審理の申立てにもかかわらず、口頭陳述の機会を与えることなく前記却下の決定をしたことは行政不服審査法四八条、二五条一項ただし書に違反すると主張する。

しかしながら、行政庁は、異議申立てが法定の期間経過後にされたものであるとき、その他不適法なものであつて、その補正ができないものであることが一見して明らかな場合には、口頭審理の申立てに対しその機会を与えることなく、異議申立て却下の決定をすることができると解すべきである。

ところで、行政不服審査法四八条、一四条三項によれば、処分についての異議申立ては、原則として、処分があつた日の翌日から起算して一年を経過したときは、処分があつたことを知ると否とにかかわらず、これをすることができないとされるところ、本件異議申立てが右期間経過後に申立てられたものであることは前記の日時の関係から明らかであり、従つて、本件異議申立は不適法であつてかつその補正ができないことが一見して明らかな場合であつたということができる。

もつとも、同法一四条三項ただし書によれば、正当な理由が存するときは、例外的に、一年を経過した後でも申立てをすることができるとされているが、右例外規定の適用が一応の合理性をもつて主張されるのでなければ、単に右のような抽象的例外規定が存在するということのみで前記の一見明白性が否定されるものではないと解すべきところ、本件異議申立てあるいは口頭審理の申立において右ただし書の適用されるべきことの明示の主張がなされたことを認めるに足りる証拠はない。

従つて、本件異議申立てにつき口頭審理の機会が与えられなかつたことの違法をいう控訴人の主張は理由がない。

(三)  控訴人は本件訴訟において同法一四条一項ただし書に該当する事由として福井地方裁判所昭和五一年(ワ)第三四五号土地明渡請求の訴を提起した前後の状況、訴訟の経過等を主張するところ、右主張を同条三項ただし書に関する主張としてみても、右主張事実をもつてしては未だ右ただし書にいう正当な理由の存在を肯定することはできず、他にこれを認めるに足りる資料はない。

従つて、本件異議申立てを前記理由によつて却下した被控訴人福井県知事の決定はその結論においても正当というべきである。

(四)  そうすると、右決定の取消を求める控訴人の被控訴人福井県知事に対する本訴請求は理由がない。

三  審査請求および裁決について

(一)  控訴人が昭和五三年五月一三日付で被控訴人建設大臣に対し本件引渡処分につき審査請求をしたこと、同被控訴人が同年七月三日付をもつて右審査請求を却下する裁決をしたことは当事者間に争いがない。

弁論の全趣旨によれば、右却下の理由は、右審査請求は異議申立前置の要件を欠くから不適法であるというにあることが認められる。

(二)  控訴人は右裁決に存する違法事由の一つとして異議申立ての審理手続の適否についての検討を怠つた点を挙げるが、本件審査請求は原処分についての審査請求であり、異議についての決定を審査の対象とするものではないから、異議申立ての審理手続について審査しないことは当然であつてその点には何らの違法もなく、控訴人の右主張は理由がない。

(三)  控訴人はまた、本件審査請求についても口頭陳述の機会を与えることなく却下の裁決をしたことは違法であると主張する。

しかしながら、審査請求についても、異議申立てにつき前述したところと同じく、それが不適法であつてかつその補正ができないことが一見明白である場合には、口頭審理の申立てに対しその機会を与えなくても違法ではないと解される。

ところで、行政不服審査法二〇条によれば、審査請求は、原処分につき異議申立てをすることができるときは、原則として異議申立てについての決定を経た後でなければすることができないとされ、この場合の異議申立てについての決定とは本案に関する決定であることを要し、異議申立ての適法要件を欠くためこれを却下した決定は含まれないと解されるところ、本件においては、原処分についての異議申立てが不適法として却下されたことから、控訴人においてさらに審査請求に及んだものであることは当事者間に争いがなく、かつ、右却下の理由が異議申立て期間の徒過という補正のできない適法要件の欠如であることが一見して明らかな場合であつたこと前記のとおりであるから、本件審査請求についてはその適法要件の一つである異議申立て前置を欠きかつその補正ができないことが一見して明らかな場合であつたということができる。

なお、同法二〇条ただし書は例外的に異議申立て前置を要しない場合を規定しているが、本件の場合右ただし書の一号および二号とは関係がないこと一見して明らかであり、三号の正当な理由については、同法一四条三項ただし書について前述したところと同様に、右例外規定を適用すべきことが一応の合理性をもつて主張されている場合でない限り、前記適法要件の欠如についての一見明白性は失われないと解すべきところ、本件審査請求につきそのような明示の主張がなされたことを認めるに足りる証拠はない。

従つて、本件審査請求手続において口頭陳述の機会を与えられなかつたことの違法をいう控訴人の右主張は理由がない。

(四)  本件訴訟における審理の結果によつても、本件審査請求が異議申立てについての本案の決定を経ないでなされたことにつき正当な理由の存することを認めるに足りる資料はなく、また、本件異議申立てを却下した決定は、本件訴訟における審理の結果によつてもこれを正当と認め得ること前記のとおりであるから、結局、本件審査請求は異議申立て前置の要件を欠き不適法であり却下されるべきものであり、従つて、これと同旨の前記裁決はその結論においても正当というべきである。

(五)  そうすると、右裁決の取消を求める控訴人の被控訴人建設大臣に対する本訴請求は理由がない。

四  結び

以上のとおり、控訴人の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却すべきものであり、従つて、これと結論を同じくする原判決は正当であつて本件各控訴は理由がない。

よつて、本件各控訴を棄却し、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 黒木美朝 清水信之 山口久夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例